
フイに投げられた部屋の明かりが、“第三の男”の意外な素顔を露わにする。
光と影、斜めのカットの連続が徐々にスリルを増していく。
第二次世界大戦後、4ヶ国(米英仏ソ)の分割統治下にあったウィーン。アメリカの西部作家ホリー・マーティンスは、旧友ハリー・ライムの招きでウィーンにやってくる。しかし、ハリーはすでに自動車事故で死亡しまさにその葬儀が行われていた。
マーティンスは、葬儀で知り合ったキャロウェー少佐からハリーが闇取引をしていたと告げられるが、信じる気になれない。事故への疑問とともに真相を明らかするため調査を始めるマーティンス。彼はやがてハリーの恋人アンナと目撃者に話を聞くことで、現場に第三の男がいたことをつきとめるが・・・。
サスペンスの名作として、常にその名が挙げられる本作品。民俗楽器ツィターの音色で奏でられるテーマ曲は、だれもが耳にしたことがあるだろう。
ウィーンといえば、かつてのハプスブルク帝国の都だが、映画の舞台となったのは第2次大戦後の殺伐とした時代。ドイツに併合されていたオーストリアは“敗戦国”となって、連合軍に統治されていた。
闇屋や成金がうごめく不穏な世相をバックに、ウィーンの夜を撮った映像は名場面の連続だ。空高く弧を描く観覧車。大下水道で展開する追跡劇。物語の冒頭と結末に深い余韻を残す冬枯れの並木道。
「正義」の名を借りたマーティンスの銃口が優れた「悪」を討つクライマックスは、人間界の本質を暗示するようだ。
『第三の男』で痛々しい光景を露わにしたウィーンを、60年経ったこの初夏に訪れることになった。ハプスブルク帝国の中心であり、音楽の都であり、戦災で深い傷を負った町でもあるウィーンは、今どんな姿をしているのか。
きっと、積み重ねてきた歴史の重さを感じる旅になるだろう。
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