僕を乗せた列車が、うねった大地を一路マラケシュへひた走る。収穫を終えた麦畑が地平線の向こうまで広がって、乾いた空と鮮やかなコントラストをなした光景を眺めながら、僕はついにアフリカまでやってきた感慨を思った。
14回目の旅にして初めてのアフリカ大陸。インド行きを断念したとはいえ、これも何かの因縁かもしれない
日本列島の13倍もあるというサハラ砂漠を抜けて、アトラスの峠を越えると、大西洋に向かった肥沃な平野が広がっている。その平野の真ん中にあって、古くから一大商業都市として栄えたのが、ここマラケシュである。1070年から200年の間、ムラービド朝とムワッヒド朝の都となって隆盛を極めた町だ。
マラケシュ鉄道駅前のハッサン2世通りを渡り、3番の市バスに乗ってしばらく行くと、高さ77mの高塔が見えてくる。マラケシュ市民が「クトゥビア」と呼んで、その美しさを誇るミナレットだ。
僕が目指す安宿外街は、クトゥビアの東側一帯に広がっている。いずれも1000円内外の、比較的質の良い宿が軒を連ねている。ハイシーズンには満室となる宿も多いと聞いていたが、僕はめでたく3軒目の、いかにもモロッコ風といった安宿に投宿することができた。
マラケシュのシンボルとして音に聞こえたフナ広場は、安宿街からは目と鼻の先にある。で、その北側一帯に展開するのがスーク(市場)である。その規模において世界一の称もあるだけ、スークには日用品から土産物、食品、金物、衣服、陶器、に至るまで様々な物が売られている。
赤土の壁の狭い路地を、時折荷車を引いたロバが馳せ向かうなどは、宛然たるアフリカの光景だ。スークの喧騒を聴きながら名物のミントティーでも飲めば、誰でも寒気がするほどマグレブ−日没する国−にいることを実感することができるだろう。
時計の針が午後4時を指した頃、彼方の空からアザーンの声が緩やかな風に乗って流れてきた。未だ衰えぬ太陽が、マラケシュの赤いスークを照らしている。
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