今回始まったエッセイコーナー、元々は、このサイトのある読者からの、僕が日常読んだ本の紹介をしてほしいとのリクエストがきっかけになりました。僕の読む本が、皆さんにとっても面白いかどうかはちょっと疑問ですが(笑)、時々、興味を惹かれた本の簡単な読後感を書いてみたいと思います。
で、今回はその第1回目。司馬遼太郎著『花神』(全3巻 新潮文庫)。主人公は、長州の大村益次郎、東京九段の護国神社に銅像が建つ、日本陸軍の創設者とされる人物です。
司馬氏は、「司馬史観」という言葉もあるくらいの偉大な歴史家ですが、この作品も、幕末・明治の激動期を、実務家、村田蔵六(大村益次郎)の視点から、無駄のない筆致で描いています。
司馬氏の作品で特徴的なのは、「余談」が多いこと。豊富な取材活動に支えられた「余談」が、作品を奥深いものにしています。名作『坂の上の雲』(全8巻 文春文庫)をはじめ、司馬氏の作品は、「歴史小説」というジャンルには、ちょっと収まりきらない重厚なものばかりです。
さて、この作品、ラストシーンがひときわ感動的です。明治二年、刺客に襲われて深い刀傷を負った蔵六は、弟子が経営する大阪の病院に運ばれます。そこへ、彼が生涯愛した唯一人の女性、イネが駆けつけました。横浜で産科病院を営んでいたイネに蔵六が言った言葉が、「あなたは産科ではないですか。」というのだったとやら。“産科医に刀傷は治せない”という、実務家らしいその言葉の裏には、愛する女性への万感の想いが込められていた、と、司馬氏は言っています。
最後にそんな幸福を得られた蔵六は、幸せな人生を全うできたのかもしれませんね。
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