サラリーマンの宿命で、社会人になってから、僕は夏休みの限られた時間を利用して旅を続けています。旅ができるだけだけ恵まれている、とは思いますが、旅仲間と話した時などは、昔の自由を懐かしんで気儘が口をついて出てしまいます。学生の頃はと言えば、論文等で多少の制約はあったものの、比較的自由に計画を立てて、しっかり準備をして出かけたものです。
ここで言う準備、とは、心の準備のことです。サラリーマンは、ある意味で決まったスケジュールをこなしながら毎日を暮らすわけで、レールの上を走っていれば給料は確実にもらえる。その意味でラクに生活できる身分です。おまけに、日本は生活インフラが過剰なほどに整っているうえに基本的に治安は良好、国民の間には一定の相互信頼があります。
その日本で気楽に暮らす人間が、見知らぬ国に突然放り出された時の心境は、実に妙なものです。一人旅、特に発展途上国でのそれは、ある意味で毎日が“戦い”なのですが、人の心の持ち様は、そう簡単には変わらない。「日常」から「旅」へとシフトするまでの1日、2日の間、気持ちの中に、どうしても“すきま”ができるのです。何しろ、当地に降りた途端、旅行者のスキを窺う現地人が容赦なく攻撃を仕掛けてくるのだから、そんな時ほど、危険を感じることはありません。
今回も、心の準備は一向に整わないまま、明日から僕は南インドに出かけます。このコーナーは、「旅と旅の間に横たわる日常」を書いていくエッセイですが、しばらくの間、「旅の中のすきま」を、インドからレポートしたいと思います。
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