昨晩からの腹痛と悪寒が治らぬまま、僕はダマスカスのバラムケ・バスターミナルからヨルダンの首都アンマン行きの直通バスに乗り込んだ。乗務員の制止を振り切って、最後尾の席に横になってしばらくすると、やがて、シリア・ヨルダンの国境地帯に到着する。もうろうたる意識のうちに出国手続き、さらにヨルダン側にて入国手続きを済ませ、僕はいよいよヨルダンに入国した。
国境から首都アンマンまでは、1時間の道のりだった。国境地帯で2時間も費やしたせいで午後の1時半を回っていたが、アンマンのワヘダット・バスターミナルへ直行。危うくそこにいた乗り合いタクシーのドライバーにだまされそうになりながら、首尾よくぺトラ行きのバスに乗り込んだ。
ぺトラまでは、砂漠の中を行くデザート・ハイウェーと、オアシスの中を行くキングス・ハイウェーの2つのルートがある。僕のバスはアンマンを出て、やがて青い空と砂色の大地が支配するデザート・ハイウェーに入った。はるか彼方の地平線と雲ひとつない乾いた空が、鮮やかなコントラストをなして、どこまでも広がっている。
この辺りは、「アラビアのロレンス」ことイギリス人将校
T・Eロレンスがアラブのラクダ部隊を率いてトルコ軍の占領する港町アカバ攻略を目指した場所だ。あまりの激しい気候に、この砂漠に足を踏み入れることは、古来より神への反逆行為とされ、ロレンスの盟友族長アリも、「神が造った最悪の大地だ」とキメをつけた。
にも拘わらずロレンスは、果敢に砂漠を横断、ワディ・ラムのベドウィンをも味方に引き入れて、ついにアカバを攻略する。
同時代の人物で、ロレンスほど異説紛々、議論囂々(ごうごう)たる人物はいない。しかし
映画を愛する僕は、ピーター・オトゥール演ずるロレンスの苦悩に、彼の生涯を見たいと念願するものである。後の英国首相
W・チャーチル曰く、
「思うに、彼は現代で最も偉大な人間の一人であった。私は彼のような人物をほかに見たことがない。彼の名は英文学に、戦史に、そしてアラビアの伝説の中に生きるだろう。」
アラビアの伝説の中に生きるや否やは別として、ロレンスがかつて命を賭したこの砂漠の風景が、僕の記憶のうちに生き続けることは確実である。
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