旅人にとって、食は重要な地位を閉める要素である。辛い記憶も、また楽しかった記憶も、その時に食したものの味とともに、深く脳裏に刻まれることとなる。普段口にすることのない味を、これまでの旅でずいぶん味わってきたものだが、僕にとってはこれも大きな財産になっている。
モロッコの旅で、必ずと言っていいほど挙げられる代表的料理に、クスクスとタジンとハリラがあるが、その中でも、今回の旅で僕が最もよく食べてきたのは、ハリラである。
ハリラというのは、魚や肉でダシをとって、トマトや豆などと煮込んだスープである。モロッコでは、日本における味噌汁のごときものだと僕のガイドブックにあるが、味噌汁よりも栄養があって旅人には有難い一品だ。
腹を壊して、フラフラになってティネリールにたどり着いた3日目の夜、町の食堂で食べたハリラの味は忘れられない。オートアトラスを越えてカスバ街道を行った8時間半に及ぶ酷暑の中のローカルバス。砂と汗にまみれて、同乗のモロッコ人とともにひたすら耐えたこの日の思い出と、到着後に口にしたハリラは、今回の旅でも特に印象に残る一コマとなった。
もう1つ、日本人になじみやすいモロッコ料理といえばタジンがある。少々値が張るだけにオーダーした回数はそう多くなかったが、ブロックにした鶏肉や羊肉と、ジャガイモやにんじん、玉ねぎなどと一緒に煮込んでスパイスで味付けした一皿はボリューム満点。貧乏旅行では不足しがちな栄養を、つかの間の贅沢で補うのに適した料理だ。
モロッコの主食は、アラビアパンという、丸くて少し固めのパンである。米が好きな僕には、したがって食の点では我慢を強いられる毎日となった。外国を旅して常に思うのは我が日本の住みやすさだと、多くの旅人が言うのを聞いてきたが、その思いを強くするのは食事ではないかと、今回の旅で強く感じだ。
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