<< April | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< お袋の味 | main | 新しい流儀 >>

神様の歌声

しばらく前に、ジョアン・ジルベルト東京公演に行ってきました。昨年に続く来日が実現して、ファンにはたまらない秋というところです。
 ジョアン・ジルベルトは、云わずと知れたボサノヴァの神様。1958年に、「シェガ・ジ・サウダージ」で一世を風靡して以来、A・C・ジョビンと共に、ボサノヴァを世界の音楽シーンに押し上げた人物です。73歳となった今も衰えを知らず、声とギターだけで世界中のファンを虜にしています。
僕が、ジョアンの歌声に出逢ったのは学生時代。名盤『ゲッツ・ジルベルト』が創り出す独特の世界にはまり込んだのが最初です。二度目の論文は、ジョアンの声とギターを聴きながら書いた、というだけ、とても威張れるような内容にはなりませんでしたが(笑)、正確なギターとボソボソ囁くような歌声は、論文を書くテンポと絶妙にマッチして、下手な書き手にもリズムを与えてくれたものです。

 コンサートの夜、予定した開演時間から1時間近く過ぎた頃に、満場の拍手に迎えられてボサノヴァの神様が舞台に現れました。その奇行ぶりはファンならみな承知済みですから、これくらいの遅刻は芸のうちと、不満を鳴らす向きもありません。
 舞台の真ん中に置かれた椅子に腰を下ろして、ギターを爪弾いたところから、ジョアンの名人芸が始まりました。どれも聴き慣れたボサノヴァの名曲を、聴き慣れたCDの演奏からは微妙にアレンジして演奏していきます。歌とギターと楽譜の三者が、軽やかに追いつ追われつする中に進行していく旋律は、実以て世界無類。73歳の頼りない老人が、目の前で紡ぎ出す精緻なハーモニーに、5千人の聴衆は、陶然と聴き入る外ありませんでした。

 ある時、ジョアンは「僕が歌っているのはサンバだ」と云ったそうですが、なるほどそうかもしれないと、僕は思いました。いかにも楽しそうに、1人サンバを歌うジョアンのステージを、三たび来年も観たいものです。
旅のすきま | comments (0) | trackbacks (0) admin

Comments

Trackbacks

Trackback URL : http://www.saftyblanket.com/travel/2008/sb.cgi/32